-くすぐりターゲット-


                                                 著者 あおむらさき様


 発見偏

 
その日、マツバラ ヒアキは陸上部の自主トレで、2人一組になって、パートナーに背中を 押してもらって前屈する
ストレッチをやっていた。
それは、顧問の教師が顔を出す前の、いつも行っている準備運動で、この日も、ヒアキ は、ランニング用のシャツと
短パンから少年らしいしなやかな手足 を伸ばして、ストレッチ をこなしていた。 ところが、その時は、ふとしたはずみ
か、背中を押していたパートナーの手がそれて、ヒアキ のわき腹に触れた。

「くうっっ」

ストレッチで伸びたわき腹のすじに、不意打ちのくすぐったさが走り、ヒアキは反射的に 上半身をぴくんとさせた。

「あっごめん、くすぐったかった?」

「えっいやっっ、そんなこと・・・ないよっっ!!!」

「えっ、そお・・・」

ヒアキは自分でも少しおどろく程強く、否定のことばを口にした・・・ それは、小学校のときの、ある同級生のことを、
とっさに思い出したせいだった。 ヒアキは今、中2だがその同級生のことは、いつも頭の片隅ぐらいにはひっかかっ
ていた。 彼はクラスの中でも、くすぐりに弱いヤツということで、事有るごとにクラスのみんなから、 くすぐりのターゲ
ットにされていたのだ。

  そうなった直接のきっかけは、わからないが、とにかくちょっとさわると、悲鳴をあげて身を よじったりするので、
みんなますます面白がるのだ。 ヒアキもくすぐられるのはかなり苦手と自覚していたので、ああはなりたくないもの
だと思って いたのだった・・・

「ホントかなあ?」

「えっ、ホ、ホントだってっ」

 その時のパートナー、ソガ ヤスヒトは学年はいっしょだが、クラスは別なのでヒアキとは 特別親しいわけではない
のだが、ノリの軽い、すぐにふざける性格だった。 ソガは、なかばふざけるように、なかば確かめるように、ヒアキの
わき腹を触りはじめた。

「ヒッ・・・」

それは、くすぐりというより、なでまわすような動作だったが、薄いランニングシャツ一枚で しかもくすぐったがっている
ことを悟られたくないヒアキにとっては、思いがけなくきつい攻撃 だった。 平然としていようとするほど笑いがこみ
上げてくる・・・

「やっやめろ・・・ふざけるな・・・よぉ・・」

  懸命に笑いをかみ殺し、相手の手を振り払いたいのをなんとかこらえながら、ヒアキは やっとの思いでことばを
発した。・・・しかしさらにわき腹をなでられる・・・

「あれぇ、くすぐったくないんじゃないの?」

「くっ、・・くすぐったくはっ・・・ないけど・・きっ・・きしょいって・・・ひははっ」

「あっ今、笑った。やっぱ、くすぐったいんじゃないかっ」

ソガは、わき腹から手をはなし、たたみかけるように言った。

「やっあのっ・・・少し、少しだよっ」

たまらず吹き出してしまったので、全面否定はもう無理だとは思ったが、ヒアキはそれでも なんとか、くすぐりに
弱いヤツと思われるのは、避けなければという気持ちで、頭の中が いっぱいだった・・・

「なあ、マツバラおまえ、本当にあんましくすぐったくないの?」

「そっそうだよっ、そりゃあ、全然てわけでもないけど・・・ほんの少しだよっ・・・でも気色 悪いからヘンな触り
かたやめろよっ」

「・・・・・・」

ヒアキが必死になるほどソガは、なにか不審そうな顔をしていたが、ともかく2人は、もとの ストレッチ体操に
もどった。こっこれで、なんとか助かった・・・かな・・ホッとしながらもヒアキは、またもし変な触られかた したら。
・・・という不安がぬけず、そのことでまた、無意識のうちに神経が敏感になっていた。よし、もう少しで押すほうと、
押されるほうが交代になるぞ・・・ああもう、早く交代にならな いかな・・・少しじりじりしながら、そんなことを考えて
いたとき・・・

「!はうっっ」

なんとソガの指が両腋の下にすべりこんで来たのだ。ヒアキは反射的にわきを閉じたが、相撲の股割りのような
ストレッチの姿勢で、腕も大きく左右にひろげていたため、指は完全 に、わきの窪みに入っていた。さらにソガは、
その指をこちょこちょと動かし始めた・・・

「ぐっ・・・くくくくっやめ・・・ろお・・」

 腋を閉じてはいても、袖なしのランニングシャツで、直接腋の下にさし込まれた指を動かさ れては、じっと耐える
ことなど、およそ無理だった。
  ヒアキは上に乗ったソガをはねのけようと懸命にもがいた。だが開脚前屈の姿勢でをとって いるときに、背中に
密着して全体重をかけられては、簡単にはねのけられるものではなか った。 なにしろ腕を前方へ突っ張ることが
できないのだ。少しでも腕を前に出せば、その分腋の下 が開いてしまう・・・短いランニングパンツから展開する
長い足をじたばたさせて、ヒアキは、 むなしくもがくしかなかった。

「どーよ、マツバラ、やっぱくすぐったいんだろ!?」

「くぐうっ・・・きっっ・・きしょっあはははっ・・・きしょいいひひひっ」

ソガ ヤスヒトの指の動きは、ますます容赦なくなった。

・・・・・・・・・・くっくっくすぐっ・・たいっっっ・・・・・・・・・・

ヒアキのなけなしの我慢も、限界がせまっていた。

・・・・・くすぐったい、もうだめだ、そう言おうと思ったそのとき、

「わははははっくっくすぐっ・・・」 「おい、お前ら、なにやってんだ!」

少し野太い感じの少年の声がして、それに呼応してソガの手もはなれた。
ソガの悪ふざけ を先輩が注意してくれたようだ・・・助かった・・・と思って顔を上げたヒアキは、ちょっとぎょっ とした。
声の主は3年のツマシタ カズミだったのだ。 ツマシタは、まわりにいる人を、やたらとくすぐるヤツだった。
ちょっとボーっとしている人がいると 後ろからしのびよって、腋の下やわき腹をくりっとやったりは、しょっちゅうで、
数人の仲間を 集めて、1年生ひとりを押さえつけ、体中くすぐりまわすこともあった。

「あっツマシタさん、今、マツバラのヤツがくすぐりなんて全然効かないって言うから、試してた とこなんですよ。」

ソガっ・・・なに言い出すんだ?!ヒアキは、なんとも言えないいやな予感をおぼえた・・・

「へえーっお前、全然くすぐったくないのか?」

ツマシタは、妙に目を輝かせて、ヒアキに声をかけてきた。

「えっえっあのっ全然てことは・・・少し、少しですよっ」

ヒアキは、いやな予感がさらに強くなるのを感じた。

「少し・・・か、じゃあおれが、実験してやるから、・・・マツバラたっけ、そこに立って手を頭の 後ろに組んでみな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じっ実験て・・・・・・・・・・・・・・」

「だからさ、おれがくすぐって試してやるよ。・・・くすぐり平気とか言ってても、下手なくすぐりしか されたことなくて、
うまくくすぐってやると、けっこう悶絶したりするヤツいるしな・・嘘ついてるヤツ とかも時々いるし。」

いやな予感は的中した。 ヒアキは逃げ出したい気持ちを押さえつけて---この場合、無理に逃げようとするのは
逆効果ということは、わかっていた---ともかく立ち上がった。
そして軽いめまいを感じながら、両手を頭の後ろに組んだ。
・・・その姿勢でツマシタに背後に立たれると、それだけで腋の下からわき腹周辺に悪寒が 走る・・・ たっ耐える
んだ・・・ここは・・耐えるしかない・・・ヒアキは上半身の筋肉に力を入れ、攻撃に そなえた。 ・・・はずだったが、
両腋の下を軽く揉まれたとたん

「ぎゃはっっっ」

ヒアキは身をよじって、腋を閉じてしまった。それは意思とは無関係に体が勝手に反応したよう な感覚だった。

「なんだ、けっこう感じるじゃねーか、マツバラ。」

「いっ・・今のはっ・・・急に来たから・・」

ヒアキは自身の反応にあわて、ツマシタからの命令も無いのに、いそいで再び手を頭の後ろ に組んだ。

「ふーーん・・・じゃあ今度、手を下ろしたら、次はみんなで押さえつけてくすぐってやるぞ。 手伝うよな、お前ら!」

ツマシタのことばに回りを見回すと、いつのまにか数人が、何事かといった顔で集まってきていた。

そして 「おおっ、手伝う、手伝う」

「いいっすよ」

などと、口々に楽しそうな声を上げた。 なっなんで・・・こんな事に・・・ああっもうこうなたっら、
本当はくすぐったいんです、うそ言ってまし たっ・・・・・と謝ってしまおうか・・・。
ふっと、ヒアキはそう思ったが、すぐその考えをうち消した。 そんな事を言えば、うそをついた罰だとか言って、
さらにくすぐられるに決まっている。
  ヒアキはもう、 くすぐりをじっと耐えるか、耐え切れずに姿勢を崩して、もっと過酷なくすぐりの地獄に落ちるか、
どちらかしかなかった。 ヒアキにとって唯一の希望は、もうそろそろ顧問の教師が姿を見せても良さそうな時間に
なって いることだった。いつもだったら、どうでも良いと思っている教師の出現を、この時だけは痛切に 願いながら、
ヒアキはよりいっそう体全身に力をこめた・・・。
    
  「ぐっっ」

最初の一触れは、かなりびくっとしたが、なんとか手を下ろさずにすんだ。

「うっく、くくく・・くはっ・・・」

  しかしツマシタの指が腋の下周辺で、さわさわと動きはじめると、強烈に笑いがこみ上げてきた。
・・・姿勢は崩さなくても、笑ってしまってはくすぐったがっていることが、ばれてしまう。

「ぎっ、ぐぐぐ ・・・ うくくくっく」

それは呼吸困難をともなう、大変な苦行で、ヒアキは大げさではなく全身全霊で歯をくいしば って、
笑いをこらえた。 だがツマシタの指の動きは、非情にも激しさを増し、腋の下だけでなく、あばら周りやわき腹 までも、
這い回った。

「ぐっ・・・ひははっっ・・ぎっ・・・・・ふはははっ・・・くはっ・はっ・・・・・はははははっ」

食いしばった歯の根から少しづつ、笑いが漏れはじめる。それでもヒアキは、全身を痙攣する ようにひくひくさせながら
も懸命に手を上げ続けた。

しかし・・・・・ シャツの裾から手を入れられ、わき腹の筋(すじ)を直接、くいくいと揉み込まれると、

「ぎゃぁはははははっっ」

その場にすとんと、しりもちをつくように、へたり込んでしまった・・・。
さっ最悪!!! 涙目で見上げると、ツマシタはすごく満足げな顔をしていた・・ソガをはじめ、
その他の回りで 見物していた連中も、ツマシタと似たり寄ったりの楽しそうな笑みと、笑顔には似合わない
ちょっと鋭い目つきでヒアキを見つめていた・・・。

 

ロックオン編

「集合ーーーーーーーーーーーーー」

部長の声が響いて、部員たちは全員同じ方向へ走りはじめた。やっと顧問の教師が出てきたのだ。
助かったああーー、ヒアキは一瞬そう思い、心底安堵した。だが、それは一瞬だった。
  練習が始まるとすぐ、このまま無事にはすまないんじゃないか、という想いがむくむくとわきあがってきた。
部活が終われば、部室に着替えに戻らなければならないのだ。その時・・・・・と考えると、ヒアキは たまらなく
不安になってきた。集合の合図がかかったときのツマシタの顔・・・・・

「ちっ、センコーかよっ」

と吐き捨てるように言ったときの顔は、なんだか小さい子供が、
おもちゃを取り上げられたときみたいな 表情だった。 しばらく実の入らない練習を続けていると、やがてヒアキ
には決定的な凶報が届けられた。

「おい、ヒアキ」

ヒアキとは、クラスも同じで陸上部員の中では一番親しくしているキノカワ ユーマだった。

「なんだか、ツマシタさんたちが、練習終わった後なんかしようって、人集めてるみたいなんだけど・・・
あれってもしかしてヒアキ、おまえのこと・・・その・・・」    
                    
「・・・・・えっ」

「その・・・くすぐろうとしてるんじゃないのか・・・と」

「・・・あっ・・」

ヒアキは何か言おうとしたが、ことばが出てこず、口をぱくぱく動かした。 そのリアクションを見ながらユーマが言った。

「おまえってホントわかりやすいとこ有るよな・・・さっきだって、くすぐったくてしょーがないの我慢してるの 見え
見えだったし・・・」

「・・・・・えっ?!・・・・・見え見え・・・・・だった???」

「ああ、あんな反応するからツマシタさんたち、よけい面白がるんじゃないの。」

「えっえっ・・・だっ・・・・・・・」

おれかよっおれが、間違ってたのかよっ・・・・・

「でもさー、殴ったり蹴ったりとかは、ないと思うし」

・・・それにしてもユーマの表情には、ヒアキの感じている切迫感はまったくなかった。

「まっ5分か10分ぐらいくすぐられれば、すむんじゃないの。」

だっだめだ・・・・・誰も助けてくれない・・・・・確かに傍から見れば、くすぐりぐらい・・・と思うのかもしれ ない。

 しかし、ついさっき小手調べみたいなくすぐりで、どうにも耐え難い感触を味わわされたヒアキ は、
数人がかりで、本格的にくすぐられるかと思うと、全身総毛立つ気分だった。ヒアキは部活が終わったら、
部室にはもどらず、そのまま帰ってしまおうかとも考えたが、ジャージでも着ていればともかく、ランニング用
のシャツとパンツだけで下校するのは、相当に勇気がいりそうだった。 それに、もし実行しようとしても、
ツマシタたちに捕まらずにいられるかどうか・・・ いつもなら、どちらかというと早く終わればいいのにと思って
いる練習が、この日だけは、いつまでも 続いてくれという気分だった。 だが時間は無機的に経過し、部活は
いつものように終了した。 終了すると同時に、ヒアキは一機に数人の部員に取り囲まれてしまった。

  それはどう見ても、事前 にしっかり段取りを決めている動きだった。 そして、さっきの口惜しそうな顔とは
正反対の、上機嫌な顔でツマシタが近づいてきた。

「おつかれっマツバラ、ところでさあ、お前さっき手を下ろしたよな、ヒッヒッヒッ」

「やっ、でも・・あのっ、おれ、きょう急いでるんで・・・」

「なに言ってんだよ、約束は守ってもらわないとなっ」

ヒアキが、まるで拉致されたような格好で部室に入ると、回りを囲んでいた数人が、いきなり よってたかって、
ランニングシャツを引きちぎるかという勢いで脱がし、さらにヒアキの体を床に押さえ つけ、シューズと靴下も
あっという間に剥ぎ取ってしまった。
  両手、両足にそれぞれ一人づつついた押さえつけ役は、体格が良くて力のある奴を選んだと思わ れ、しな
やかだが腕力には自信がないヒアキは、まったく身動きできない状態で、床の上に大の字 磔にされてしまった。
おれ一人をくすぐるためだけに、こんなに緻密に計画を練るなんて・・・・・あ・・悪夢だ・・・ いささか現実感が遠の
くのを感じながら、まわりを見回すと、喜色満面のツマシタやソガ、他3、4人 の顔が見え、その後方に、こちらを
遠巻きに見物する部員たち何人かの姿があった。その中には、 キノカワ ユーマの顔もあったが、相変わらず
切迫感のない、ちょっと困ったような、苦笑するような 表情だった・・・。

  ツマシタはヒアキの胴体の右サイドに座り込むと、そこから左右のあばらに手を伸ばしてきた。ツマシタ の
指が軽く触れると、ヒアキは思わず
 
「ぐっっっ」

っと息を詰まらせた。やがて指は、ヒアキの体の上で軽くステップを踏みはじめ、あばらを中心に腋の下に
の ぼったり、わき腹 や腰あたりまで行ったりを繰り返した。

「あはっ・・・・・くっ・・・ぐぐぐっ・・・・・あはははっ・・・・・くうぅぅぅー・・」

それでもヒアキは、始めのうち数十秒は、なんとか笑いをこらえようと努力した・・・

「ぐっ・・・うああはは・・・・・はっ・・ははははっ・・・ああははははは」

  しかし、体の自由を奪われた状態での、一方的なくすぐりは、普通とは一味違う苦しさつらさで、一分
もしないうち、ヒアキは連続的に笑い声を上げ始めた。 時々は、思い出したように笑いをこらえようとする
のだが、そのたびに、ついさっき親友から言われた ことば・・・我慢してるの見え見え・・・
が頭の中でリフレインして、意思をくじかれるのだった。

「やっぱり、かなり感じてんだろマツバラ、くすぐったくないなんてウソ言ってたんじゃねーか?」

ツマシタが、くすぐる手の動きを少し抑えて、声をかけてきた。

「あっ・・・くっ・・・・・そっそれは・・・」

くすぐりを弱められてもヒアキは、まともに答えられなかった。もう何を言っていいのか、わからなかったのだ。
「それじゃー、そろそろお前らも手伝ってくれっ」 やがてツマシタは、ヒアキを部室に拉致した連中の中で、
押さえつけ係り以外の、手のあいていた3人 ほどに声をかけた。彼らは、待ってましたという感じで近づいて
来る。

・・・・・やっやばい・・・誰か・・・たすけて・・・・・

この状況は当然、予想してはいたが、いよいよ現実のものとなると、ヒアキは言い
知れない絶望感、 不安感にとらわれた。

 3人のうち1人は、ツマシタが座っている反対側、ヒアキの体の左側につき、もう1人は太腿まわり
を狙うつもりなのか、大の字に開かされた脚の間に、そしてソガは足の裏あたりに行ったようだった。

「うわああはははははっっ」

8本の腕、40本の指がいっせいに体中を這いまわりはじめるとヒアキは、ひとたまりもなく爆笑して しまった。
手数の多さも、もちろんだが、さわさわと軽く触れられたり、ぐりぐりと強く揉まれたり、好き勝手で 予測不能な
攻撃パターンに、ヒアキの神経系統はまったく対応できず、ただひたすら、くすぐりに 対する感受性だけがた
かまっていった。

「だあ〜はははっ あーーはっはっはっはっ・・ぎゃっっやめっ ぎひひひ  たすっけははは・・
けてえええぇはははっっ・・」

手足は完全に押さえつけられていても、しかし胴体や首は、まだかなり自由に動かせた。そして このことは、
ヒアキにとって、けして助けにはならなかった。 思考能力が吹っ飛びそうな頭のすみに、まだかろうじて・・・
悶絶するのは恥ずかしい、くやしいと いう思いが
ひかかっていた。

「わああぁっはははは」

笑いをこらえる努力を放棄したあとも、ヒアキは手足を痙攣するようにこきざみに震わせることで、
なんとか胴体部分の動きは最小限に抑えようと苦闘を続けた。 胴体までがっちり固定されていれば、
こんな愚かなことで悩まずにすんだのに・・・・・。
だが、ツマシタともう1人に左右両側からくすぐられている胴体を動かさずにいるのは、どだい 不可能だった。
  特にツマシタのさわさわとした動きをベースに、時々急に、あばらやわき腹を強く 揉み込むくすぐりはとて
もたえられなかった。

「ふぁははははっぐあっっ」

このくすぐりをされるとヒアキは、一瞬息を詰まらせ、びくんと大きく胴体をはねかした。 太腿は、はじめから
ぐりぐりと強めのくすぐりを加えられ、これも思いがけないくすぐったさでヒアキを 笑わせた。 その上、時々、
短パンの裾からインナーの中にまで指を入れら れそうになり、ヒアキはそのたびに

「ひっ、やめっ」

たまらず腰を振ってなんとか振りほどいた。 ソガにくすぐられている足の裏も、
ヒアキにとっては弱点のひとつだった。
  脚は大きく広げられていた が、ソガ1人で、かろうじて左右両足に手が届くようだった。
さらに足首を押さえつけているやつも、時々指をごそごそと動かし、足の甲や足首をいたずらした。

くすぐっっっっっっっったああああああいっっ   やめてえええええええええ〜〜

ヒアキは心の中で思いっきり叫ぶのだが、口から出てくるのはとても人語とは認識できない笑い声 と
悲鳴だけだった。
さらに、胴体の左側にいるやつも、はじめのうちは単調な攻撃だったのが、そのうちツマシタをまね て、
くすぐりに微妙な強弱をつけるるようになってきた。 そしてこのあたりから、このイベントが始まってどの
くらいたつのか、10分・・5分・・それとも20分・・
ヒアキにはわからなくなっていた。 もおおだめだっっ  早くやめてえええええっっ時間の感覚が
飛ぶほどくすぐられ続け、ヒアキはついに最後まで残っていた抵抗感
も吹っ飛び、 大きく身を捩りはじめた。 だが、どんなに力いっぱい体を動かしても、手足を押さえられ
ていては、可動範囲は知れていた。 引き締まった肉体上を這い回る腕の動きは、ヒアキの動きに
充分対応していた。

「あっはっはっはっぐああはははっっ、がぁあはっはっはっはっっっ」

恥ずかしさもみっともなさもかなぐり捨てた悶絶も、くすぐりの威力から逃れる効果は、まったくと
言って良いほど無くて、ただ体力を消耗させるだけだった。

それでもヒアキは、かなりの時間、暴れ続けた。ヒアキ自身は、もちろん気づく余裕は無かったが、
4人の押さえつけ係りは1人の少年を押えるのに汗だくになっていた。

・・・だが、やがてその動きも限界に達したのか、少しづつ鈍っていった。

  しかしくすぐりの苦しさが軽減されたわけではない。体の動きは鈍り、声も弱々しくなっても、ヒアキ
の顔は、さらにさらに、不本意な笑いで引きつっていく。

「はっはあ・・・ひはははは、くっくるしひひひ・・・ふゃははは」

しばらくの間、痙攣するみたいにもがく動作を続けた後、ヒアキは最後のスタミナを振り絞って、

「ぎゃああっはっはっは、やめっ、ろおぅあははははっっ、あっあっあああはっっはっはっはっはっっ」

突然、再び大笑いしながら、悶絶しはじめた・・・・・ よだれは垂れ流し状態なのに、口の中は妙に渇き、
泪でうるんだ目には、チカチカと変な光が映っていた。

もう本当に変になりそうだ・・・そう思ったときヒアキは、ふと自分自身の悶絶する姿が見えたような気がした。
見えたと言っても正確には、頭の中で想像する自己像が、ふと視覚化しただけかもしれない。
だがヒアキがその瞬間、いだいた感情は、驚いたことに、セクシーポーズの美少女でも見たときの 感情と酷く
よく似ていた・・・・・が、ついさっき見ていた夢がどうしても思い出せないことが、時々有るのとよく似た按配な
のか、ヒアキはその感情をすぐに忘れてしまった。

「今日は、この位にしとくか・・・」

遠くの方でツマシタの声がした。
「あんまりやり過ぎると、かえって鈍感になることも有るって言うしな・・・」

声はだんだん近くなり、 最後のほうは、拡声器でがなりたてられる気分だった。

「そーなってもつまんねーし!」

くすぐりから解放されても、ヒアキはその場に大の字になったまま、ぜーぜーはーはーと荒い息を 吐いていた。
その様子を見ていたツマシタは

「今までお前とは、あんまり話したこと無かったけど、これからはお前も仲間だな。楽しくやろうな マツバラ。」

と満足げな笑顔をみせた。

ツマシタたちが立ち去った後も、ヒアキはまだ立ち上がる気力も無く、その場にのびていた。

「あ、あの、だいじょぶか・・・ヒアキ」

そこへ、着替えを終えていたキノカワ ユーマが近づいてきた。

「くすぐられるのって・・・・・けっこう、やばいんだ・・・な」

彼の顔からは、さっきまでの気楽感はすっかり消えていた。

「あっ・・・ユーマ・・・おれ、もおだめだよっ、もう絶対ツマシタさんたちに、くすぐられ続けるよ・・」

「うん・・で、でも、もうすぐ夏休みだし・・・2学期になったらツマシタさんたち3年は、すぐ隠退 だし・・・」

そんなの、気休めにもならないよ、それまでが地獄なんじゃないか、とヒアキは思ったが口には 出さなかった。
ユーマの方も、自分の言葉の説得力の無さを自覚しているのか、口調はかなり、しどろもどろ だった。
帰宅途中にも、ヒアキは、なぜこんなことに、これからどんなくすぐったい目に会うんだろうなどと うすぼんやり
した頭で考えていた。

「うおわっっ」

考え事のせいで集中力が欠けていたのか、ヒアキは駅前で並んで停めてあった自転車に足 をひっかけ、
がちゃがちゃがっしゃーーんっっと、大きな音をたてて、数台の自転車をまきこんで、 派手にひっくり返った。
好奇と同情の視線が、いっせいに突き刺さってくる。
「ぅゎ、ヒアキ・・・なにやってんだよ・・・だいじょぶか?」
となりを歩いていたユーマの表情も、気遣っているというよりは、どちらかというと恥ずかしそう だった。
子供たちの嘲笑も聞こえてきて、ヒアキはよりいっそう、この世界の不条理さを感じ ていた。